2008年11月24日

自転車

毎日30分は自転車に乗るという生活を1年以上続けていたけれど、最近はけっこう仕事が忙しかったうえに、数年前に肉離れした場所が急に痛み出したこともあって、10日ほどの間ほとんど乗れなかった。

それもようやく落ち着いてきて、このあいだ久しぶりに自転車に乗ったところ、歩行者が突然目の前に飛び出してきた。
僕は日頃から安全運転を心がけているし、彼のことは飛び出す前からよく見えていたので特にあわてることもなく避けたのだけれど、彼はこちらに気づいていなかったようで非常に驚いていた。

「ごめんなさい!」と彼は叫んだ。
僕は別に気にしていなかったので何も言わず通り過ぎて、すぐ先の赤信号で停止した。
すると彼が僕を追いかけてきて、もう一度「ごめんなさい!」と叫んだ。
見ると、明らかに顔つきが健常者ではない。
おそらくは自閉症だと思われるが、僕の身近な人にそういう人がいないので確信は持てない。
「ごめんなさい!」と彼はまた叫んだ。
僕はどうしていいかわからなかったけれど、とりあえずにっこりと笑って「だいじょうぶです」と言ってみた。
しかし彼はますます真剣な顔で「ごめんなさい!」と叫んだ。

おそらく彼なりに許しを求めているのだ、とこのとき悟った。
そして僕の「だいじょうぶです」は不正解だった。
彼の中での許しを得られないかぎり、彼は謝りつづけるしかないのだ。

でも僕に彼の正解なんてわかるわけもない。
僕は前を向いて信号を見つめる以外に何もできなかった。
信号が青になると同時に強くペダルを踏み込んで、もう振り返らなかった。
彼は遠くからずっと「ごめんなさい!」と叫んでいた。
僕のほうが泣きそうだった。
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2008年11月19日

亀田父のブログ

亀田三兄弟の親父さんのブログが始まった。

曰く
今日からブログ始まった 皆さんも ひま あったら ちょこちょこ 見て 長大


曰く
今日 メキシコに トモキの プロデビュー戦の ため メキシコに行きって来ます


曰く
来年は 二階級制覇

必ず さす

皆さん 気体 してや。


計算なのだろうか。
世間が亀田父に期待している文章そのものであり、これなら僕にもゴーストライターが務まる。
妙にかしこまった丁寧語だったり、丁寧に第三者の校正を受けた当たり障りのない文章だったりしたらがっかりしちゃうもんね。
コメント欄を見たところ、煽りもなく、縦読みらしき表現もない。
期待を気体と書く人間にそこまでの管理能力があるわけもなく、第三者が運営していることは間違いないのだが。
posted by ハジメ at 19:31| Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月14日

Y氏について(7)

いいかげん長くなったのでもう一気にまとめて書いてしまうけれど、僕は単なる顔見知りレベルの人とか、ご無沙汰すぎて気まずい人とか、とにかくYの消息を尋ねるためにいろいろな人と連絡を取った。
どうにか以下の情報が手に入ったものの、結論から言えばYは現在も行方不明である。

・Yの住居はいまだ無施錠のまま空き家となっており、失踪後はYが一時的にも帰宅した形跡はない。
・失踪直前にYは実家を訪れていた。
・その後、ご両親の預金通帳と印鑑が盗まれていることが発覚した。
・そして数日後、都内で数万円の引き落としが確認された。
・引き落とされたのが小額である点から、Yがなんらかの犯罪に巻き込まれたというよりは、Y自身の生活費を得るための親族間窃盗であったと考えられる。
・ゆえに、あえてご実家では窃盗の件を警察には届けていないという。
・ただし彼自身の失踪についてはすでに捜索願が出され、公的な事件となっている。

同じようにYを心配する人たちと連絡を取り合ってはいるけれど、もう僕にできることは、いつか彼がふらっと戻ってきてくれることをただ待つのみである。
posted by ハジメ at 14:32| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月07日

Y氏について(6)

Yと僕に、Mというライターを加えて、3人で大きな仕事をしたことがある。
僕らはとてもうまく連携できて、とてもいい記事が作れた。
読者人気もダントツで良かったし、業界内でも評判となった。
今でもいろいろなところで「ああ、あの記事の」と言われるくらいだ。

Mは才能があるのに謙虚で、誰からも好かれていた。
僕も彼の柔らかい物腰がとても好きだった。
彼が趣味でDJをやっているというクラブに差し入れを持っていったりと、あまり友達を作らないタイプの僕にしては親しくしていたほうだと思う。

しかし僕が別の編集部にしばらく入り浸っているうちにMとはだんだんと疎遠になっていき、ある日Yと久々に飲んだときに突然Mの訃報を聞いた。
Mは遺書も残さず動機も不明のまま自殺してしまった。
いくつもの仕事を抱えたままだったこともあり、周囲を大いに混乱させたという。
YはMが自殺した当時も彼の担当編集者であり、当時を振り返りながら「とにかく大変でしたよ」と言った。
疎遠だった僕はまるで蚊帳の外で、葬式に出ることもかなわず、すっかりすべてが終わったあとに聞かされたわけだ。
彼ほどの好人物がなぜ死ななければならないのか、僕にはまったくわからなかった。
僕よりもかっこいいラフが作れたし、友達も多かったし、おしゃれでハンサムだった。
これほどだめな僕ですら死ぬ気になんかならないのに、なぜ彼が。

僕はいまだにMのことを思うと切なくなる。
彼の交友関係からすれば僕なんか取るに足らない存在だったかもしれないけれど、僕はもし彼に何か相談されればいくらでも力になるつもりでいた。
しかし彼は僕に一言もなく命を絶った。

そして今は僕に何の相談もないままYが失踪してしまっている。
posted by ハジメ at 05:23| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月04日

Y氏について(5)

ところでYにはもう何年も恋人がいなかった。
僕はそれなりにうまく生きているので比較的そっち方面には強くて、ゆえによく知り合いに女の子を紹介することがあるのだけれど、Yにかぎっては誰も紹介したことがなかった。
Yは恋人として付き合うには明らかに問題がありすぎる。少なくとも僕の大事な知り合いに彼をお奨めすることはできない。
最後にYが交際していた女の子と僕とは仕事上の関わりがあるのだけれど、彼の親友というだけで今でもよそよそしい態度を取られる。
言葉にこそしないものの、もはや彼のことなんて思い出すのもごめんだという顔をする。はっきりと、何の遠慮もなく。

そんなYと先日飲んだとき、僕はついに、女の子を紹介するよと言ってみた。
彼の精神状態がときどき不安定になるのは何年も恋人がいないせいかもしれないし、彼からの恩を少しでも返したい思いもあった。
もう二度と失踪してほしくないという気持ちもあった。
彼がぜひよろしくお願いしますと笑顔で言ったので僕はすっかりその気でいた。
そんな矢先に、3度目の失踪だった。

編集部からの連絡によると、彼の住む部屋は無施錠のまま無人になっており、北関東にある彼の実家にも戻っていないらしい。
自宅に引きこもっていたというこれまでの失踪とは違うようだ。

僕からも連絡してみますと言って電話を切り、まずYの携帯に電話をかけてみた。
コールもなく、そのまま留守番電話になった。心配してるので連絡をくださいと伝言を入れた。
メールをしてみた。返事は来ない。
ミクシィをチェックしてみた。彼はもう3日以上ログインしていなかった。
やはり今回はこれまでとは違う、と感じた。
いちおうミクシィ内のメッセージも送信しておいた。
さしあたって僕にできることはそれだけだった。

数日経ってもYからの返事はなかった。
しかしまあ、おかしなところはあるけれど死ぬようなタイプじゃない。
どこかでのんびり自由を満喫しているに違いない。
やはり彼に女の子なんて紹介できない、とあらためて思った。

無施錠で失踪というのが少々気にかかったものの、それから1ヶ月、僕はただ彼からの連絡を待った。
しかしついに彼からの連絡は途絶えたままだった。
posted by ハジメ at 18:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月02日

Y氏について(4)

またかと思いつつ何も知らないふりをして電話を切り、ミクシィをチェックすると、やはりつい数分前にログインした履歴がある。
僕はまたYにメッセージを送った。しかし今度はまったく返信がなかった。

それから2ヶ月後、僕もすっかり諦めていた頃にYからの返事が来た。
「とりあえず生きてます。まずはご連絡まで」
あまりに簡潔すぎる内容に呆れたが、気長に待つので何かあったら連絡するようにと返信するにとどめた。

それに対する返信はなく、さらに4ヶ月が経過したある日、またすっかり諦めていた頃にメッセージが届く。
「長らくご無沙汰しておりましたが、ようやく他社で働く形になりそうです。またご連絡します」
僕がすぐに再就職を祝う言葉を送ると、10日後、再びメッセージが届いた。
今度は、彼の具体的な再就職先と部署名、さらにまたも仕事を依頼したい旨が記されていた。
僕はもちろん大いに歓迎すると返信した。そしてまた飲みに行こうとも書いておいた。

それから数日後、Yから飲みませんかという電話があり、僕らは半年以上ぶりの再会を果たした。
彼は突然退職した理由についてはまた言葉をにごしたが「自宅に引きこもってました」とだけ言った。
見た目はすっかり元気そうで、本人も「すっかり元気になりました」と言ったので、僕は心から安心した。
彼は以前と同じようにたくさんビールを飲んだ。まったく何の問題もない、僕の知っているYだった。
いきなり連絡がつかなくなるのはさびしいからもうやめてねと念を押すと「わかりました」と彼は笑顔で応えた。

彼の再就職先は某企業の広報で、僕はそこでも広告制作の仕事をもらい、またも破格のギャラを受け取った。
打ち上げと称してステーキもおごってもらった。会社の金だから大丈夫です、と彼は言った。
さらに彼は某出版社へのコネがあるからそこにも僕を紹介したいと言った。
「誰かいいライターいないかと言われまして」
「僕でいいの?」
「ハジメさん以上のライターを僕は知りません」
そんなふうに持ち上げられて、僕はまた新しい編集部を紹介された。

その編集部との初顔合わせのとき、僕は「もう歳なので徹夜はできません」なんて言ってしまったにもかかわらず、Yさんの紹介ならまったく問題ないでしょう、と言われて、いきなり大きな仕事を何十ページももらった。
Yに感謝の電話を入れると「今日飲みにいきませんか」と言われた。もちろん僕はOKした。
彼はまたもたくさんビールを飲んだ。話も大いに盛り上がった。そしてまたも彼は僕にお金を払わせなかった。

それから1週間後、Yが紹介してくれたばかりの編集部からメールがあった。
新しい仕事の詳細かと思ってメールを開くと、文面は以下のようなものであった。
「Yが会社を無断で休み続けているという連絡がこちらに入ったんですが、ハジメさん何か知りませんか」
posted by ハジメ at 05:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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